2002年某国に来て最初に驚いたのが、迷彩服も含めやたらと軍隊風・警察風の制服を着ている連中が街の中で目に付くことだった。共産主義国家や独裁国家においては、往々に政府の権威を強調するために多くの政府機関員に制服を着させ 派手な肩章をつけて仕事をさせる光景が目立つ。某国も駅員や税務職員などでも軍服のような制服を着て威張り散らす職員が多い。それはそれとして着任当初は、国家統制、独裁体制維持のためには厳しい管理体制が採られているのだな・・などと感心するとともに これだけ配置されていれば治安も悪くないのだろうな・・などとトンデモナイ誤解してしまった。しかし 町々で見かける彼らのほとんどは民間人で 宿直の夜警員や民間の警備員だったり、また普通の労務者であることが次第に分かってきた。本物の警官は殆ど制服など着ていないし、軍人も制服のまま街を歩いている事は多くない。

某国の警察(公安)には、民警(人民警察)と武警(武装警察)があって、日本で見るお巡りさんの仕事は、ほとんど民警が行っている。武警は、その名の通り武装した警官と言う事で政府重要施設の警護、大使館の警護 凶悪犯やテロ組織に対する対応など日本でいうと機動隊と軍隊を合わせて二で割ったような組織である。何故か消防隊も武警の担当になっている。武警は、武装しているので武警制服か迷彩服または、特殊警察の黒服を着用している。大使館の外に配置されている彼らは、バッキンガムの衛兵のように 実に見事に統制が取れた行動をしている。但し、統制が取れているのは制服を着て勤務をしている時だけで、私服になると逆にタガが外れたように素行が悪い連中もいる。

民警と呼ばれている警察官は、実にだらしなく制服着用を嫌がり、出来るだけ制服を着ないで済ませるようしていた。制服でなければ普通の民間人と変わらないので周りを気にする必要もない。警察官らしい行動でなくても良いわけで気分的にも楽である。それが習慣として身についていた。派出所や公安局へ行っても中で働く人は全て私服、事件があって対応に外に出る警察も私服であった。だから周りから見ても誰が警察の人か分らないのである。刑事であれば私服姿も職務上必要であろうが 一般警察官はもっと警察らしくしてほしいものである・・と感じたのは私だけではないはずだ。

民警の例外が 交通警察であり彼らだけが、職務中制服を身に着けて仕事をこなしている。交通警察が制服着ていなかったら道路上で誰も言うこと聞かないであろうから当たり前と言えば当たり前であるが 制服着ている部署の方が珍しいというのも某国公安の分りにくい所である。 また、偉そうにしている民警の腰には、拳銃も何もぶら下がっていない、丸腰状態。どうも 彼らに拳銃を管理させるとろくな事が起きないようで、没収されたようなのである。(最近は、再び所持をするようになってきた)

 

 ある政府役人の話では、各政府部門が担当したくない面倒な仕事が最終的に公安に押し付けられたので 彼らの仕事は実に多彩で忙しいのであるという。なんと日本では保健所が担当する犬の登録や予防接種の管理も公安の仕事 戸籍や住民票管理も公安の仕事である。住民のもめごとやちょっとした喧嘩でも 呼ばれるので 現場で事が大きくならないように話を纏めるような仕事も多い。社会の雑務係である。

重要な場所での治安維持は武警がやっていて どうでも良い場所は、民警が担当?しかも丸腰で拳銃も持たせてもらえなければプライドもへったくりもあったものではない。人間そういうものである。しかも小さい権力は沢山持っているので 金集めに走る輩が多くなるのも仕方がない。公安は、腐敗の温床でもあり威張っている割に危険には近づかないので 人民からの信頼もない。実に可哀そうな存在とも言えた。

 私の友人夫婦(某国籍)が あるレストランで食事をしていた時 やくざ同士の争いに遭遇したそうである。レストランで飲食中の4人の男に対し ナタをもって乱入した5人の男は、いきなり後方から4人の首筋にナタを振り落とし 3人がその場でめった切りにされた。天井まで血吹雪が飛んだそうである。1人は外に逃げたが追いつかれ外で切殺された。当然 店側は、110番通報をしたが 警察の車は、しばらく中に入らず外で待機してそうだ。そして乱入していた5人がすべて立ち去ってから現場に入ってきたという事である。友人曰く「彼らは、怖いからいつも現場にはすぐ入らず 事が終わってから介入するんだよ」 拳銃もなければそうなるかもしれない。

こうした事件は、某国首都でも結構発生しており 2002年は、市内で1年に2000人以上が喧嘩や殺人で死んでいたというデータでさえあった。東京都の8倍の面積があるとはいえ 東京都内での同年の殺人被害者は、1415人であるので 如何に治安が悪かったか想像できますね・・・ひと昔前の話ですが。お巡りさんが市民から信頼されず 政府の犬として威張ってばかりではこうなってしまう。

 今はどうか知らないが ちょっと前まで日本の警察に若い公安担当者が毎年研修派遣されていた時期があったらしい。彼らは、日本の交番勤務も体験するのであるが 彼らが某国に戻ると「日本の警察官がうらやましい・・なにせ市民にこれだけ信頼されて勤務できるのだから」と感想を漏らすとの事。それだけ 某国の警察は、信頼されない存在だった。

 某国では、制服の管理体制もデタラメであった、なにせ 一般の守衛でも警察官の制服にそっくりな服を着れたし 冬コートなど公安御用達の道具も自由に購入して使える。市内の民間警備会社は、ほとんど地元公安の息のかかった子会社のようなものであるので 物品の区分けも厳密に分けられていない。民間の警備会社では、迷彩服を制服にしているところもあり、また 映画の影響かアメリカのSWAT風の制服が流行して 黒の戦闘服を着たガードマンが あちこちのビルやスーパーにいた時期もあるが さすがに肘パッドや膝パッドなどコストが掛り過ぎるので フル装備バージョンは、下火になってしまったが未だに制服の背中に「特SWAT警」などと書き込んでいるのを目にする。警棒ひとつ持ってないのにSWATの意味分って使っているのかと笑ってしまう。さらに それを着て仕事についているのが 高校生ぐらいの小柄の女の子だったり 農家のお爺さんみたいな時は 思わずもっと笑ってしまうのである。しかし 某国の事情を知らない外国人から見ると「なんで 物々しい姿の人間がウヨウヨいるのだ?」となってしまう。


 
農村から出稼ぎにきたこのオジサン・・字は書けないし鍵閉めしかできないが、SWATなのだ!・・・同じ制服を高校生ぐらいの女の子も着て仕事をしていた。18歳以上でないとこうした職に就けないはずだが、歳をゴマ化して早く働きに出る・・ 故郷に仕送りをするために皆、金を払って身分証明書の生年月日を書き換えているのだ。


公安=警察関係に関しては、2008年の首都でのオリンピック開催を前に 全ての事が改善の方向に向かって行った。このままじゃ 国として恥をかくことが分っていたので治安強化と共に 公安の身内に対するあらゆる締付も厳しくなり 「勤務中は制服着用!」って・・極めて当たり前のような指示も出されるようになった。一般人が警察の制服に似たようなものを身に着けることも禁止され 規定も出されたので 漸く警官と同じ制服はなくなってきたが SWATなど外国の警察・軍隊風制服は、相変わらず自由である。

もう一つ 某国では、大学生や一部の高校生に対し 入学時の義務として軍事訓練を行う。軍事訓練と言っても銃を撃ったりはしない。軍から派遣された教官の元 無料で支給された迷彩服を着て 整列、行進、国旗掲揚などの基本姿勢を1週間ほど学ぶのである。この時 配られた迷彩服は、学生が親元に記念で送ったり ファッションとして面白がって着る人も多いので街中に迷彩服姿が増える。軍は、軍用品の横流しも得意であるから 正規の迷彩服が街に出回ることもある。工事現場で働く農民工が、皆 迷彩服着用という場面は、いまでも散見できる


バスを待つ農民工達 迷彩服は、バラエティに富んでいるが.柄と職業とは無関係・・・彼ら農民工は、社会的地位が低いが
道路工事、清掃、建設工事と彼ら無しでは、都会の発展維持も難しい。縁の下の力持ちなのだ。


 でもね・・一言、言わせてもらえば 迷彩服では、事故防止の観点からも百害あって一利無しなのよ!第一、建築現場などで迷彩服では事故に巻き込み易いし、事故が起きても死体も発見しにくいじゃない?

                                       (201621日 記)

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